院長コラム

中高齢者に多い足の痛みやしびれの原因は腰?腰部脊柱管狭窄症ようぶせきちゅうかんきょうさくしょうについて

2023.09.14
整形外科の疾患

9月に入っても長野市は真夏日が続いていますが、当院近くの田んぼでは稲穂が垂れてきて、少しずつ秋に近づいているのを感じます。この暑さももうしばらくの辛抱ですね。

さて夏の初め頃のこと、「歩くと足が痛い」と70代の農家の男性が来院しました。
痛むようになったのは1カ月くらい前からだそうで、農作業をしていてだんだんと歩くのが難しくなってきたと言います。
男性いわく「いすに腰かけてしばらく休むと痛みがおさまるものの、また歩くと痛むので困っている」とのこと。
これは、間欠跛行かんけつはこうと呼ばれるもので、腰部脊柱管狭窄症ようぶせきちゅうかんきょうさくしょうの患者さんに多く見られる特徴です。

腰部脊柱管狭窄症の症状・原因
腰部脊柱管狭窄症ようぶせきちゅうかんきょうさくしょうとは、背骨の中にある神経や脊髄の通り道(脊柱管せきちゅうかん)が圧迫されることで、太ももや膝から下にかけて痛みやしびれなどの症状を引き起こす病気です。

年をとると背骨が変形したり、椎間板が膨らんだり、靭帯が厚くなって神経の通る脊柱管を狭くして(狭窄)、神経が圧迫を受け脊柱管狭窄相が発症します。


他にも、トイレに行く回数が増えたり、残尿感があったりといった症状が見られます。
痛みやしびれは安静時にはほとんどありませんが、歩いたり背筋を伸ばして立っていたりすると症状が現れます。
そのため、「歩いては休み」を繰り返すというわけです。
この病気は加齢や背骨の変形などによって起こり、中高齢者に多く見られますが、若い方でも発症することがあります。
特に力仕事をしている方や長時間のデスクワークをしている方など、腰に過度な負荷がかかることで発症のリスクが高まります。

診断
今回の男性の話から「少し休むと歩ける」「前かがみになると痛みが楽になる」という症状が、腰部脊柱管狭窄症の可能性が高いと推測しました。
MRI検査をしてみると、案の定、その所見がみられました。
これと症状が似た病気に、椎間板ヘルニアや閉塞性動脈硬化症がありますが、原因は異なります。

椎間板ヘルニアは神経を圧迫するものが背骨の中に入ってくることで起こり、閉塞性動脈硬化症は足の血管が詰まって血流が悪くなることで起こります。
いずれの病気も間欠跛行を引き起こすことがあり、症状が似ているため鑑別が必要です。

治療・予防
腰部脊柱管狭窄症は放っておいても治らないので、足に痛みやしびれに気づいた時点で、整形外科を受診することをおすすめします。
適切な治療を受ければ、歩行障害や生活の質の低下を防ぐことができます。


治療法としては、主に薬物治療、装具療法、手術などがあり、圧迫の程度や痛みの度合いなどの症状によって選択します。

⚫︎神経ブロック
局所麻酔剤やステロイドを神経やその周辺に注入することで痛みを緩和します。
⚫︎薬物治療
血流を改善する薬を使って症状を和らげます。
⚫︎装具療法
前かがみになるようなコルセットを装着して、脊柱管への圧迫を減らします。
⚫︎手術
症状が日常的に支障をきたす場合に行います。切開して骨を取り除いたり、背骨を固定したりして脊柱管を広げます。

先ほどの男性の場合は、保存的治療で様子を見ることにしました。
通院する中で徐々に痛みはおさまり、手術には至りませんでした。
予防としては、日常生活で正しい姿勢を心がけることやストレッチで背骨を柔らかい状態に保つことなどが挙げられます。
農業をしている方だと、どうしても前かがみで作業しがちですが、普段は良い姿勢を意識したいものです。
男性は、現在も定期的に通院をしていて、「今週は無理をしたから少し痛いな」などお話しをしてくれます。でも、初めに受診した時よりも確実に良くなっている事(姿勢がいい)が分かります。患者さんが元気になっていく姿を見るのは医師として本当にうれしいです。そこには「治したい」「良くなりたい」と思う患者様の努力があってのものとも思っています。

これからは秋の味覚の収穫の繁忙期ですね。仕事が忙しくてご自分に気をかけてあげられないかもしれませんが、腰や肩、膝、足に違和感があるなと思った時は、お早めに受診ください。