院長コラム

「ロコモティブシンドローム」とは? 歩ける体でいるために知っておきたいこと

2023.12.12
整形外科の疾患

「ロコモ」という言葉を聞いたことはありますか?
ロコモとは「ロコモティブシンドローム」の略称で、運動器の障害のために歩いたり立ち上がったりする移動機能が低下した状態を指します。
この状態を放置しておくと、要支援・要介護や寝たきりになるリスクが高まるのです。
ロコモの原因や診断、予防について2回に分けて解説します。

ロコモティブシンドロームの原因
日本は平均寿命・健康寿命ともに世界一だそうですが、厚生労働省の「介護保険事業状況報告」によると、要介護・要支援認定者数は、要介護5を除いて各区分で増加しています。
要介護になる主な原因として、「認知症」、「脳血管疾患」、そして「骨折・転倒」があります。骨折・転倒には、じつは運動器の障害が大きく関わっているのです。
人が自由に体を動かせるのは、骨や筋肉、関節、脊髄、神経などの運動器のおかげなのですが、障害が起こると体をうまく動かせなくなります。
そうなると、筋力や柔軟性、バランス能力が低下し、転倒・骨折するリスクが高まります。
骨折してしまうと身動きが取れなくなり、さらに筋力が低下。
その悪循環で、最終的に介護が必要になるというわけです。

運動器の障害にはいくつか原因がありますが、主に次のことが挙げられます。
⚫︎加齢 ー 年を取ることで筋肉や骨の量が減少し、運動機能が低下。
⚫︎生活習慣 ー 運動不足による筋力の低下。
⚫︎運動器疾患 ー 変形性膝関節症や変形性腰椎症、骨粗鬆症などの病気。
⚫︎肥満 ー 太り過ぎによる膝や腰などの運動器への負担。
⚫︎やせすぎ ー 栄養不足による骨や筋力の低下。

これらに加えて、「がん」およびその治療によって、骨、関節、筋肉、神経などの運動器に障害が起きて移動機能が低下することがあります。
「がんロコモ」と呼ばれるもので、進行すると体が不自由になり介護が必要になるリスクが高まるだけでなく、がんの治療にも影響を及ぼします。

ロコモティブシンドロームのセルフチェック
自覚症状がなくても、ロコモになっていたり、すでに進行していたりする場合があります。
大切なのは、ロコモになっていることに早く気づいて、それ以上進行させないことです。
ロコモであるかどうかを自分でチェックする方法として、「ロコモ度テスト」があります。
これはロコモの診断基準となるテストで、下半身の筋力を測る「立ち上がりテスト」と歩行能力を測る「2ステップテスト」があります。
それぞれやり方を見ていきましょう。簡単にできるテストなので、ぜひ試してみてください。

⚫︎立ち上がりテスト⚫︎
高さ40センチほどの台を使って、下半身の筋力、特に膝を伸ばす筋力を測定する方法です。
①両脚テスト
1. 両手を前で組んだ状態で台に座り、両足を肩幅くらいに広げます。
2. 反動をつけずに立ち上がり、直立したまま3秒間保持します。


②片脚テスト
1. 両手を前で組んだ状態で台に座り、両足を肩幅くらいに広げます。
2. 片方の脚を上げた状態で反動をつけずに立ち上がり、そのまま3秒間保持します。


「ロコモ度1」
片脚テストで立ち上がれない場合 → 移動機能の低下が始まっている状態です。
「ロコモ度2」
両脚テストで立ち上がれない場合 → 移動機能の低下が進行している状態です。

⚫︎2ステップテスト⚫︎
歩幅を調べることで下半身の筋力、バランス能力、柔軟性などを含めた歩行能力を総合的に評価します。
1. スタートラインを決め、両足のつま先を合わせて立ちます。
2. できるだけ大股で2歩進み、両足を揃えた状態で止まります(バランスを崩した場合はやり直し)。
3. スタートラインから止まった地点までの距離(2歩分の歩幅)を測ります。
4. 2回行って、良かった方の記録を採用します。

次の計算式で2ステップ値を算出します。
2歩幅(cm)÷ 身長(cm)=2ステップ値


「ロコモ度1」
2ステップ値が1.1以上1.3未満の場合 → ロコモが始まっている状態。
「ロコモ度2」
2ステップ値が0.9以上1.1未満の場合 → ロコモが進行している状態。
「ロコモ度3」
2ステップ値が0.9未満の場合 → ロコモが進行し、日常生活に支障をきたしている状態。

さて、テストの結果はどうでしたか?
ロコモ度1~3の判定が出て、ショックを受けた方もいるかもしれません。
でも大丈夫。すでにロコモが始まっている人、進行している人でも回復は可能です。
次回は、ロコモティブシンドロームの改善と予防の方法について解説します。