院長コラム

変形性膝関節症へんけいせいひざかんせつしょうの症状と治療法・膝の変形を防ぐ方法

2023.12.25
整形外科の疾患

気が付けば今年も残りわずか。長野市内は厳しい冷え込みが続いています。
さて、前回、前々回のコラムでは、「ロコモティブシンドローム」について解説しました。(前回のコラム前々回のコラム)
これは骨、関節、筋肉などの運動器の障害のために、歩いたり立ち上がったりする移動機能が低下した状態を指します。
この状態を放っておくと、だんだんと歩くことができなくなり、要支援・要介護や寝たきりになるリスクが高まるのです。
今回解説する「変形性膝関節症へんけいせいひざかんせつしょう」も運動器の障害の一つで、放置すると日常生活に支障をきたすようになります。
その症状や原因、治療法について見ていきましょう。

変形性膝関節症へんけいせいひざかんせつしょうの症状と原因
変形性膝関節症とは、膝の関節の軟骨がすり減り、変形して痛みが生じる病気です。
初期の症状は、「正座がしにくい」「しゃがむと痛い」「立ち上がりや歩き始めに痛む」などで、少し休めば痛みがとれます。
中期になると、正座や階段の上り下りが困難になり、膝が腫れて熱感が生じます。
末期になると、安静時にも痛みがとれず、変形が目立つようになり、膝を真っすぐ伸ばせなくなります。
すでに日常生活上で支障をきたしている人は、変形性膝関節症が進行している可能性が高いです。

原因は加齢によることが多く、関節軟骨が年齢とともに弾力性を失い、使い過ぎですり減り関節が変形します。
その他には、肥満や過度な運動、骨折、靱帯や半月板損傷などの膝のけが、化膿性関節炎などの感染の後遺症として発症することもあります。
また、遺伝的な素因も関係するとされています。
男女比的には1:4と女性に多くみられ、高齢になるほど罹患率は高くなります。

診断
変形性膝関節症の診断は、基本的に問診や触診、レントゲン検査などで行います。
触診では、膝関節の痛み、腫れ、変形、関節可動域などを調べます。
レントゲン検査では、膝の骨の変形や骨棘こつきょく(骨のとげ)、関節の隙間の狭小化、関節面の骨のすり減りなどを確認して変形の程度を評価します。
また、必要に応じてMRI検査を行う場合もあります。
MRI検査を行うのは、軟骨や半月板、靭帯などの軟部組織の状態を詳しく調べるため、また変形性膝関節症以外の病気の可能性を排除するためです。

治療
変形性膝関節症の治療方法は、症状の重さや進行度によって異なりますが、大きく分けて保存療法と手術療法があります。
保存療法は、運動療法や薬物療法、装具療法などで痛みや炎症を緩和し、関節の機能を維持する方法です。
運動療法では、膝の負担の軽減を目的に膝の周りの筋肉を鍛えます。
薬物療法では、痛み止めの薬や膝関節内へのヒアルロン酸の注射で痛みや炎症を抑えます。
ヒアルロン酸の関節内注射は、体内の潤滑油を補い、傷ついた軟骨を保護したり炎症を抑えたりするもので、以前このコラムでも紹介しましたね。
ひざの痛みや炎症を抑える効果が期待できるヒアルロン酸注射

装具療法は、膝に装着する装具や足底板などで、膝の動きや荷重のかかり方を調整します。
これらの保存療法で改善しない場合は、手術療法を検討します。
手術治療には、小さな切開範囲で体への影響が少ない「関節鏡手術」、骨を切って変形を矯正する「骨切り術」、膝の軟骨や骨を人工の関節に置き換える「人工膝関節置換術」などがあります。

予防
筋力を増強する運動療法は、変形性膝関節症の治療だけでなく予防にも有効で、家の中でもできるので患者さんにもすすめています。
ここで、大腿四頭筋だいたいしとうきん(太ももの前の筋肉)を鍛えられる簡単な方法を2つ紹介しましょう。

①床の上で行う方法
1.仰向けになる。
2.巻いたタオルの上に片方の膝をのせる。
3.膝でタオルを床に押し付ける。
4.そのまま3〜5秒間保つ。
5.力を抜く。

②いすに座って行う方法
1.いすに浅く座る。
2.片足を10センチくらい上げる。
3.そのまま3〜5秒間保つ。
4.元に戻す。


大切なのは、膝に負担がかからないように筋肉を鍛えることです。
痛みを我慢して、無理に歩いたり階段を上り下りしたりすると、かえって症状を悪化させてしまいます。
痛みのない範囲で毎日繰り返し、少しずつ回数を増やしていきましょう。

要支援・要介護になる高齢者の5人に1人は、運動器の病気が原因と言われています。
寝たきりにならないためには、日頃から予防に取り組み、体の異変に気づいたら早期に受診することが大切です。
「いすから立ち上がる時に膝が痛む」「正座やしゃがみ込みができない」など、膝の痛みや違和感が続く場合は、我慢せずに当院にご相談ください。
体調管理に気を付けて、健康で楽しい新年を迎えましょう。